1997年度実践記録
奈良市立登美ヶ丘中学校 みさわ学級 上嶋光春
1. はじめに
みさわ学級には知的、情緒、肢体の3学級あり、生徒4名(知的1 情緒2 肢体1)が在籍している。
数学は課題別に一対一の個別指導で取り組んでいる。
私は、情緒学級の3年A君のすうがくを週2時間受け持っている。
この実践記録はその報告である。
2. 生徒の実態
A君は、比較的重度の情緒障害があり、調子の悪いときは「いらない」と授業に参加できず、鉛筆をかんだり、パニックになることがある。
大きい小さいがわかる。
積み木を背の高い順にならべることができる。
数的には1〜9まで数唱できる。
数字とタイルは1から7まであわせることができる。
数字は1と3はよめるが、そのほかはあわない。
という実態をふまえて、次のような数学の目標を設定した。
3. 目標
・情緒を安定させて授業にとりくめるようにする。
・数字と数詞があうようにする。(当面は1.2.3)
・1〜10までの数字とタイルをあうようにする。
・授業のパターンを自分覚えて見通しをもって取り組めるようにする。
・パズルで難しい課題でもやり方を自分で試行錯誤してやり直せる力をつける。
・パソコンのマウス操作を覚えて自分で楽しんでできるようにする。
4. とりくみ
50分間を次のような(1)積み木→(2)木のパズル→(3)数字とことば→(4)タイルと数字→(5)パソコン学習という授業の流れを設定してとりくんだ。
(1)積み木
○高さが同じで太さのちがう10個の積み木をまず縦に積んでから、大きい順に並べる。
○太さと高さのちがう10個の積み木をまず縦に積んでから、大きい順に並べる。
○高さと太さが逆になっている10個の積み木を縦につんでから、高い順にならべる。
○太さが同じで高さのちがう10個の積み木を縦に積んでから、任意に高さを比べて系列化して並べる。
(2)木のパズル
くもんの木のパズル「たんぐらむ」※
型紙に並べていく。
2ピースから7ピースまで順番にふやしていく。
図をみて同じように並べる。しっかり位置関係を把握してならべる。
画用紙に外の輪郭だけを型取りして、その中に組み合わせを考えて並べる。
※くもん木のパズル たんぐらむとは・・・・
7つの積み木を組み合わせて形を作る遊びです。もともと「タングラム」と は中国で「知恵の板」とよばれ1000年以上も前から遊ばれていたパズルで す。(説明書より引用)
(3)数字とことば(1.2.3)
数字1.2.3の書いたブロックを2組用意
ことばを聞いて数字のブロックをとる。
数字を読む。
「いち」と「さん」はことばを聞いてとれる。
1と3は数字がよめる。
「に」と2はすこしずつあう回数がふえてきた。
(4)タイルと数字(1.2.3.4.5.6.7)
タイルを色画用紙を切ってたくさんつくる。
数字のカード1〜5にあわせてタイルを並べる。
ノートに順番にのりではっていく。
タイルを見て数字を書く。
現在は、1から7まで数字とタイルがしっかり対応している。
数字もタイルをみてかける。しかし、1と3以外は数唱と数字があわない。
(5)パソコン学習
MES(Mac Education Society)自作教材集CD-ROM1995年版 障害者とコンピュータ利用教育研究会編の中から
簡単な1から5までの数のソフト 「なすび君」
6から10までの「りんご君」※
マウスのボタンをクリックすると音楽がなって数字とりんごがでてくる簡単なソフトだが、興味をもって何回もとりくんでいる。
Thinkin' Thingsという市販のCD-ROMソフト
ボタンを押すと図形が音をたてて動くソフト。
※なすび君・りんご君の作者は、大阪大学 佐野 彰さん 三浦香織さん 。
FEDHAN'S MEMBER 各位
「MES自作教材集CD-ROM'97」の完成と配布のお知らせ
前略
たくさんの方々より貴重な教材をお寄せいただき、今年も自作
教材集CDができあがりました。教材を開発してくださった方々に
厚くお礼申し上げます。今回のはMacのみならず、Win95でも使
えるハイブリッド版となりました。どうぞ学校で、ご家庭で子ど
もたちとご利用くださいますように。
これまでと同く、この自作教材集CD-ROM97は制作実費を「制
作協力金」として頂戴致しております。送料込で一枚2,000円と
なります。電子メールでお申し込みください。折り返しCDと郵便
振り込み用紙をお送りいたします。よろしくお願いいたします。
MES障害者とコンピュータ利用教育研究会
代表 成田 滋
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申し込みは、MES滋賀の大杉成喜@滋賀大学教育学部附属養護学校
さんが事務局をなさっています。(現在、兵庫教育大学に内地留学中
です)
E-Mail osugi@pop.net135.or.jp
Nifty HGA01651
です。
Niftyからでしたら以下の項目をご入力の上、返信ください
------------------き---り---と---り-------------------
TO:HGA01651
SUB:「MES自作教材集CD-ROM'97」の配布希望
氏名:
自宅住所:〒
自宅電話番号:
自宅Fax番号:
職業:
勤務先:(教育・福祉関係者はぜひお書き下さい。)
勤務先名:
勤務先住所:〒
勤務先電話番号:
勤務先Fax番号:
E-mail:
必要なCD-ROMの枚数:
以上はパソコン通信Nifty-Serveの障害児教育フォーラムより転載
郵送の場合は下記まで
〒673-14
兵庫県加東郡社町山国2006-48, 613 成田 滋 気付 ( tel 0795-42-2416)
5. 成果と課題
・同じことの繰り返しの中で、すこしずつ力をつけていっている。
・パズルなどの視覚的な組み合わせの思考力をさらに伸ばしながら、すこしぐらい難しくても工夫してがんばれる力がついてきている。
・視覚的な情報は高い能力を持っていることがわかった。右脳的な理解がすぐれている。
・聴覚的な情報も比較的よく理解できているが、ことばの表現の部分での障害をどのように代補していくのか。左脳的な理解力をつけていくか。
・ことばかけなどにさっと反応して行動できるが、ことばの表現力とくに、数詞と数字をどのようにむすびつけていくか。
・数を聞いてタイルやものの数をだせるようになるのは、なかなかだが、数字など視覚的な手がかりをつかって理解できるようになる。
・数字をみてものをその数だけ出せるようになる。
・多い少ないなど、具体的な場面での数的な理解や表現につなげていく。
・パソコンの活用により、楽しくマウスの操作を覚え、意欲的にとりくめるようになったが、パターン化しやすので、デジタルカメラなどを活用して本人にあった手づくりの教材ソフトづくりが課題。
継次処理に強い場合 同時処理に強い場合
●段階的な考え方 ●全体をふまえた考え方
●部分から全体へ ●全体から部分へ
●順序性の重視 ●関連性の重視
●聴覚的/言語的な手掛かり ●視覚的/運動的な手掛かり
●時間的 ●空間的
●分析的 ●統合的
※奈良県教育研究所障害児教育部でいただいたK-ABC検査の資料より
6. さいごに
1年から3年間A君の数学をもって、最大の成果は、どんなに障害があろうとも、わかることの楽しさ、できたことの喜びは、みんな同じであり、学習の意欲になるという確信をつかめたことでした。「いらない」とパニックになって授業の成立しないことがあっても、適切な指導法や課題や教材の設定をしっかりしていけば、必ずわかってくれるという確信がもてたことでした。さらに、教える側の創造的な教材や教具の工夫も必要ですが、そのまえにA君は必ずわかってくれるという心の共感があってはじめてなりたつとう教育の原点をA君から学んだように思います。